半径20cmほどの世界での読書
不運が続く。妙に気が落ちる。ついていない自分に嫌気が差す。
辛さから逃げた。平日のフードコートの仕切りに凭れて眼鏡を外した。『水中都市 デンドロカカリヤ』を読む。
意思を持つ「何か」が本来の姿では無くなっていく。安部公房のそこが好きだ。毒々しさを覚えるが、この人間が書く文が麻薬のようで、ふと読みたくなる衝動に駆られる。
20cmほどが本の文字を捉えられる限界らしい。少し離してはしきりにピントを合わそうと視界がぼやける。カメラのオート機能でピントを合わせてるときと全く同じだ。見えない。他の視線も他の文字もこの時は全く分からない。
ミスタードーナツの持ち帰りのドーナツ2つ、おかわり自由のホットカフェオレ。控えめに流れる(おそらくカウントダウンTV)最近の曲と誰かの話し声、椅子を動かす音。
仕切りが冷たさを左腕に感じる。心もどうやら冷たいのだろうか?
ホットカフェオレが自分のフィルターをみたす。時間よ、どうかもう少し穏やかでいてくれないか。